仙台高等裁判所 昭和26年(う)927号 判決
(イ) 所論は被告人は原判示第四の保管金百十六万円を拐帯逃走し以て不法に領得した事実はないというのであるが横領罪は犯人において自己の占有する他人の物を自己に領得する意思を発現する行為があつた以上は特に其の物に対する処分行為の完了するを待たずして成立すべきものであるところ原判決挙示の各証拠を綜合すれば被告人は脱脂大豆を購入し得る当もないのに保管金百十六万円を拐帯してその所在をくらまし、その後東京都内等に於て之を擅に自己の宿泊料及び競馬等に費消したことが認められるのであるから右拐帯逃走の時不法領得の意思発現があつたものと解するのが相当である。
(中略)
(ロ) 判決に示すべき証拠の標目は、その挙示した証拠から犯罪事実を認定することが実験則に照して合理的であれば足りるのであつて、どの証拠のどの部分を証拠としたかというが如きことは必ずしも説明の要なくその如何なる証拠がまたその如何なる部分が如何なる事実認定の資料に供せられたか記録上各証拠の標目と判示事実とを対照することによつて容易にこれを知ることができ得ればそれで足りるのである。固より各事実毎にその証拠を挙示することは好ましいことではあるが本件のようにその証拠の内容が原判示各事実の証拠として共通するような場合に於ては原判決に示した程度で十分である。
(後略)